ライトノベルの存在価値
ライトノベルは時として偏見の目で見られる。「あんなの小説じゃない」みたいな。実際、挿絵を使用している時点でそれは小説としては邪道だ、間違いなく。それはラノベ作家(元といったほうがいいのか)の乙一自身も感じていたようだ。
学生時代には『スレイヤーズ』などのライトノベルを愛読していたが、後に「内容の薄さを綺麗な挿絵で誤魔化している作品が多すぎる」と感じるようになり、ライトノベルから遠ざかったという。作家としてのデビューはライトノベル作家としてであったが、「ライトノベルの存在さえ知らない人や、読書家でもライトノベルには手を出さない人が多くいることも事実である」として、『失踪HOLIDAY』『きみにしか聞こえない CALLING YOU』『さみしさの周波数』(いずれも角川スニーカー文庫)の収録作から5作品を選び、新たに書き下ろし作品を加えてハードカバー化されたのが『失はれる物語』(角川書店)である。だが決してライトノベルを嫌いになったわけではなく、今でもライトノベルに対する愛着心は有り、ライトノベルのおかれている現状を憂いている。ちなみに本人は、自身の小説と比較してライトノベルが劣っているという評価を好ましく思っていない。
しかし、そもそもライトノベルは真っ当な小説である必要は全くないのだ。
- 敷居の低さに価値がある
今オタク産業はメディアミックスで成り立っている。その基盤となる原作として注目されているのが漫画であり、ヴィジュアルノベルであり、ラノベだったりする。
で、自分も趣味で小説を書いていて、よく実感するのが小説=描写だということ。どんだけ凄いストーリーが描けても、この描写力がなければ薄っぺらいものになってしまう。かつて文豪と呼ばれていた連中の描写力はやはり凄い。しかしラノベでそれができている作品にはほとんど出会ったことがない。そもそもラノベにそこまでの文章力なんか求められていないわけだ。求められるのは、ストーリーはもちろん、まずキャラクターに魅力があるかだったり世界観だったり。
読者やあるいは編集者が、作品に何らかの魅力があればそこをダイレクトに評価してくれる可能性がある。いわばラノベは自分のアイディアを表現する企画書のようなものだと思う。
だから普段挿絵などで読者に脳内補完されている作品が、アニメ化された途端圧倒的な魅力を放った作品が多々ある。
これは、文章力という表現力が欠けていた原作に、アニメーションとBGMという表現力(それもプロの映像作家の)が加わった結果、作品本来の良さが引き出された結果だと思う。
とにかく、素人が作家としてプロデビューを目指すなら、とりあえずラノベが一番可能性があるんじゃないのかな。だからこそラノベは敷居が低いままでいて欲しいと思う。間違ってもラノベに高尚さなんて求めてはいけない。
きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)
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